2011年8月
伝説の男 vol.8 「王国龍」
ガラパンにある指圧治療院『HINEMLE THERAPY』のオーナー医師・王国龍(ワン グールン)は、中国ハルピン出身、39歳。1998年にテニアンの地に降り立った、彼の仕事はホテルのハウスキーピング。友達に誘われて面接を受けたら合格してしまった。ただ、それだけのきっかけだった。
鍼灸指圧院を営む祖父のもとで、19歳の時から身に付けた‘指圧’と‘鍼灸’の技術。中国在住の頃は特技とも思っていなかったその能力が、やがて運命的なチャンスをもたらすことになる。ある日、ホテルのレストランマネージャーが首の痛みを訴えた。それを彼はいとも簡単に治してしまった。別のマネージャーが高熱にうなされた際も、わずか20分で熱を下げてしまう、というマジックをやってのけたのである。こうして彼の特技は、この南国の地で開花しはじめていく。
2000年、勤めていたホテルを退社。サイパンに移り住み、「王国龍指圧院」を開業した。症状を緩和するマッサージではなく根源から正常に戻す、いわば‘治療’を念頭に置き、病を患って駆け込んでくる人たちに惜しみなく特技を注ぐ日々。この島では手術が困難と言われていた椎間板ヘルニア。苦痛で歩けないその症状も数回の施術で、手術することなく完治させたという。喘息や肥満までをも改善する驚異の施術。それは瞬く間に噂となって広がり、遠くグアムから通う人もいるほど。 2004年からは‘健康を取り戻す’という意のチャモロ語にちなんで、現店名に改称したそうだ。
彼の診療には症状の説明はいらない。ベッドに横たわるだけで、全身から発せられるサインを五感でキャッチ、その診断結果に合わせて8通りの技術を組み合わせる。そのひとつがカンフーマッサージだ。実は彼、カンフー師範の資格まで持ち、武術師としても認められているツワモノ。テニアンにいた頃からカンフー教室をはじめ、2003年にはサイパン初のカンフーアカデミー「龍成武術館」を立ち上げている。ちなみにハルピンにいた91年、93年の2回、ボクシングのチャンピオンにも輝いたらしい。武術と治療は相反するようだが実は相通じている、と語るこの男。現在、治療のほかにCHC病院の駐車場で、月・水・金の6時半から7時半まで太極拳を教えている先生でもある。戦いの先生と、治療する先生。そのふたつの顔を、ぜひ見比べてみたいものだ。