H伝説の男

2011年6月

伝説の男 vol.6 「石田敬蔵」

 サイパンを代表する民芸品・ボージョボー人形。その正規販売店のおみやげ屋『ANIES IMUZA』のオーナー・石田敬蔵は、この島では誰もが知る人物。しかし、彼の真実のヒストリーを知る人は、さて、どれだけいるだろうか。京都生まれの石田は29歳の時、あの名優・杉良太郎氏に気に入られ、役者&付き人に。その傍ら35歳で焼肉店を出店。4店舗まで拡大すると同時にナイトクラブも経営した。我武者羅に走っているうちに芽生えた夢。それは、アメリカに焼肉店をオープンさせること。そして、ハワイ、グアムといった候補地の中から最終的に選んだ場所がサイパンだった。

 2000年、念願の焼肉店をサイパンにオープン。順風満帆のスタート、と思いきや、2002年9月11日に同時多発テロ事件が勃発。その余波はサイパンの経済を襲い、お店は倒産へと追い込まれる。しかし、撤退はしなかった。2003年には島内観光ツアーを手がけ、2005年4月、おみやげ屋を開店。『ANIES IMUZA』。後ろから読むと…AZUMI(アズミ)SEINA(セイナ)。ふたりの愛娘の名前である。なんともユニークなネーミングだが、彼の発想や着眼点の凄さを裏付ける逸話がある。それはボージョボー人形。日本でも広く知られるまでになったが、その火付け役が、実は彼なのだ。

 2005年6月に天皇陛下がサイパンを訪れた時のこと。陛下がお風邪を召されているという話を聞きつけた石田は、ボージョボー人形を娘に託して「早く風邪が治りますように」と陛下に渡させた。このシーンが日本のメディアで大きく報道され、その存在は一気に全国区に。狙ってはいたものの、ここまでの騒ぎになるとは・・・彼自身、想定外に違いない。たくさんの日本人に来てほしい。そのためには、もっとアピールしなくては…。ずっと、そう考えていた石田の想い。人形が彼の願いをかなえてくれたのか、以来、ボージョボーはサイパン名物として大人気のおみやげになった。訪れた観光客からその家族や友人へ。ボージョボーがたくさんの幸せを育んでいく。「いつか、その人たちがサイパンに幸せを運んでくれたら」。描いていたシナリオが現実となることを、今は切に願うばかりだ。

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