2011年5月
伝説の男 vol.5 「浅井護人」
ダイビングショップ『アクアスミス』のGM・浅井護人(あさいもりと)は、ダイビングのインストラクターとしてサイパンに移り住み、15年。現在、マリアナ・アプネア・スピアフィッシング協会の会長を務める、素潜りの狩人でもある。スピアフィッシング?日本ではあまり馴染みのない言葉だが、フリーダンビングで銛や水中銃を使って魚を射止める、ミクロネシアでは競技として認められているスポーツフィッシングだ。
30歳を迎えたある日、趣味のない自分の人生にふと虚しさを感じた彼は「釣りでもしてみるか」と道具一式を購入、海釣りに出かけた。しかし、何も釣れない。やがて激しい雨。悪天候の帰り道、大きな木の枝が車を直撃し、窓ガラスが割れた。釣り道具代$150+修理代$150=$300。この出費に対して、成果はゼロ。悔しくてたまらず、翌週からは海に潜って魚を狙うことに切り替えた。
スピアフィッシングは魚を追いかけるのではなく、待ち構えて狙う。スキューバダイビングと違って素潜りのため吸気はできない。最初はなかなか上手くいかなかったが、経験を積むほどに海中待機の時間も延びていった。つまり、その分チャンスは拡がる。海中では脳の酸素の消費を最小限に抑えるため、思考回路もOFFにするという。これまで20キロもあるロウニンアジを何度も仕留めたという彼は、4年に一度開催されるスポーツ大会‘MICRONESIAN GAME 2010’にサイパン代表として出場。グアムでのスピアフィッシング大会では部門優勝、総合準優勝をも果たした。
日本ではスピアフィシングは制約上できないが、サイパンでは特に問題はなく、『アクアスミス』には観光客でも体験できるコースもある。最近ではこのスポーツを目的にやって来る日本人も増えてきたとのことで、今後はスキューバダイビングではなく、こちらに注力していくとのこと。‘趣味のない人生’から始まった、新しい道。仕事にしてしまったら次なる趣味を何にするのか、については知る由もないが、彼がこのスピアフィッシングで‘伝説の男’になってくれることを、大いに期待したいところだ。