伝説の男

2012年4・5月

伝説の男 vol.16 「劉志明」

 今、サイパンではマッサージ業界が熱い。その第一人者、劉志明(りゅうしめい)は中国・揚州出身。幼少の頃から、漢方を栽培して自ら調合して売る父の背中を見て育った。その中で、ごく自然に医学に興味を覚え、南京中医学院へ進学。卒業後、中国の病院に6年間勤務する。が、当時は医者であっても収入は少なく、1997年、一念発起してこのサイパンの地で、日本人向けに「ダイナミック指圧」を開業した。半年後には2号店、1年後には4号店まで拡大。成功の理由は、何より医者の視点で磨かれたマッサージの技術。彼が手がける客は確実に満足して帰り、再び友だちを連れて戻ってきた。

  この成功に自信をつけた彼は、レストラン事業にも手を伸ばす。2004年に中華料理店「揚子江」を、続けてベトナム料理店をオープン。マッサージ事業では2008年に「ダイナミック指圧」グアム店を、さらに同時期、ハファダイビーチホテルに「Lagoon Spa」を、また、日本人向け観光情報サイトの運営もはじめた。しかし、サイパンの景気はみるみる急降下。日本人観光客が激減する中、震災が襲った。経済は悪化の一途をたどり、事業継続の決断が迫られた時、自らの存在を見つめ直すことになる。原点回帰。本来の得意分野はマッサージ。拡げすぎた事業を整理して、そこに集中するしかない。苦渋の決断だった。

 日本の文化や伝統をこよなく愛する、彼の店の客は15年間、ほぼ100%日本人。店づくりも、日本人の好みに合わせきた。その成功事例が「Lagoon Spa」。従来のマッサージ店ではなくハイクラスなSPAスタイルにしたことで人気に。2010年4月にオープンさせた「Spa Verde」 も日本のトレンドを踏まえて自然にこだわり、オーガニック素材をふんだんに取り入れた。しかも、個室でグループやカップルが楽しめるように、部屋の中にジャグジー、シャワー、トイレを完備。従来までの男性客はもちろん、カップルや女性客がひっきりなしに訪れる。今年1月、コーラルオーシャンポイントリゾートに登場した「Lagoon Spa」2号店も期待されるところだ。

 現在、サイパンは韓国、中国からの観光客が増えている。けれど、今後も日本人だけを見つめて、日本の旅行会社をしっかりとサポートしたい、と揺るがないこの男。その人生をたどると、趣味と呼べるものは何ひとつない。ただ、実直に仕事を愛し、ひたむきに働く。何だか今の日本人より、日本人のような気がして、心から頑張ってほしいと思った。

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