2012年3月
伝説の男 vol.15 「Del Benson」
米国ユタ州出身のDelBenson(デル・ベンソン)は、幼少の頃から世界地図が大好きだった。はるか太平洋に浮かぶサイパン島。地図を見ていて「いつか行ってみたい、探検してみたい」と衝動的に思ったというのは、ただの好奇心だったのだろうか。
その夢がかなったのは1991年。高校の職業指導の先生として、教師である奥様とともにサイパンへ。しかし、常に変化を求めてしまう性格。4年後にはその職を離れ、一転、クリエイティヴの世界での起業を決意する。新しいビジネスは、ライフワークだった写真。1999年に日本で家族写真の撮影を開始し、これが瞬く間に口コミで広がった。噂は日本にとどまらず、海を渡り、世界各国へ。依頼者がこの島に来ることもあれば、上海、タイ・・・と海外に出向くこともしばしば。現在までに700人を超えるファミリーをレンズに収めてきた。今でも桜の美しい春と、紅葉の秋から初冬にかけて年2回は日本へ。新宿御苑、八芳園、ホテルニューオータニ・・・緑が美しいロケーションが好みらしい。もちろん被写体は人物だけではない。‘I love Saipan’ にある大きなパノラマ写真も作品のひとつだ。 彼の持ち味は撮影技術のみならず、その特有の表現力にある。ペイントピクチャー、つまり写真を描くという発想だ。わざわざ銀塩フィルムで撮影し、それをデジタル加工で仕上げたり。例えば、1920年代のパラオの写真に、自分と奥様を一緒に取り込んで、まるでその時代に存在していたかのように表現するのだ。マッカーサーと一緒に歩いている写真もつくった、というユーモアセンスも併せもつ。
今、夢中になっていること。それは多人種が暮らすサイパンで1000人の顔を撮るプロジェクト。ローカルのチャモロ人、カロリニアン人。アメリカ人、フィリピン人、中国人、韓国人、日本人、バングラディッシュ人、パラオ人、チューク人・・・。使い道は未定とのことだが、聞いているだけでもワクワクしてくる話だ。 そしてもうひとつ、とてつもなくビッグな構想を抱いている。それは巨大なカルチャーセンターを造ろう、という計画。サイパンにマリアナ諸島や、ヤップ、ポンペイといったミクロネシア諸島のそれぞれのビレッジをつくり、実際の生活の様子を見たり、体験できるというものだ。その中に日本統治時代の村もつくりたい、とイメージはどこまでも拡がっていく。ケタ違いの創造力をもつこの男。もしかすると、この壮大なプロジェクトも実現するような気がした。